ねこえびすの名著決定版

野良ネコ音吉の勝手に決定「名著」ブログ

向井透史『早稲田古本屋日録』

 こんにちは! 東京の片隅で密かに暮らす野良ネコ音吉です。実は音楽のブログを書いているんですが、Facebookで「ブックカバーチャレンジ」という、一週間限定で愛読書のカバーと記事をアップする(そして次の人にバトンタッチする)という面白い企画が回ってきて、それが思いのほか楽しく、お役目が終わっても余韻が忘れられずにこのブログを始めました。もし音楽にも興味をお持ちでしたら、サイドバーのリンクから「ねこえびすの名曲決定盤」にぜひ飛んでいってやってください。よろしくお願いします。

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 さて音吉が勝手に名著に決めた本のトップバッターは、早稲田古本屋街にある古書店『現世』のご主人、向井透史さんがお書きになった『早稲田古本屋日録』です。

 古本屋という場を介して行き交う人々を描かいたエッセイ集なのですが、とにかく文章が素晴らしいんです。気取らず、着飾らず、ユーモアに富み、さらりと核心を突く様は、まるで馴染みの喫茶店か飲み屋で気のおけない友人と会話を楽しんでいるかのようです。小説家や随筆家が量産される昨今、向井さんのような作家(ご本人は「いいえ、古本屋です!」と仰るでしょうね、きっと)との出会いは貴重という他はありません。

 実は昨年、妻さんと古書店『現世』を訪ね、向井さんにお目にかかることができました。柔道をやっていらっしゃったというお話の通り体格のいい、人懐っこい笑顔が印象に残るナイスガイでした。初対面なのに馴れ馴れしくも御本にサインをお願いしたところ、快く応じてくださいました。この場をお借りして御礼申し上げます。

 

「午後の空気に備えるために、棚を直すことにする。本をたくさん持っている方は気付いているとはおもうが、本は触れば触るほど喜ぶ。カタンカタンと軽くはずませてやる。これは埃が積もるとか、そういうことではないのだ。本は一冊では言葉を発しない。しかし、棚の中で、他の本たちと出会うとき、本はいつも言葉を放つ。これは私的な感覚でもなんでもない。耳をすませば毎日のように、古書のざわめきが聞こえてくる。自分も、その意味を受けとめる感覚が、ほしい」

 

向井透史著『早稲田古本屋日録』(右文書院)より p.116